久しぶりにご飯いっしょに食べようよ、と誘うと『仕事終わりまで待ってくれるならいいよ』という返事が来た。
僕のインターン先の職場と秋恵ちゃんの勤める仕事先が地下鉄で2駅ほどの近場だったというのもあるし、ただ単にこのところ顔を合わせてない友人に顔を合わせたいと思ったからでもあった。
遅めのお昼という言い訳をして1時過ぎに新宿で待ち合わせると、リュックサックを背負った秋恵ちゃんがひらりと手を振った。
「久しぶり」
「会うのいつ振りだっけ、なんかもう去年の秋冬ぐらいほとんど会ってなかった気がすんだけど」
「そうだね、秋恵ちゃんが市ヶ谷に異動になってから顔会わせてなかったもんね。豊さんの引退試合の時にちょっと顔合わせたぐらい?」
「ってことは半年近く顔合わせてなかったのか、池袋いた時はちょくちょく一緒にご飯食べてた気がすんのになぁ。というか大学池袋なのになんで待ち合わせ新宿?」
「インターンシップ先が新宿だから、まあ新宿って言ってもここからだいぶ歩いた代々木に近い外れの方だけど」
ああそういう事ねと呟く秋恵ちゃんに「何食べたい?」と聞くと「がっつりしたもんが良い」と答えられた。
この一か月ぐらいずっとこの辺りを歩いてるからこの辺りにどういうお店があるのかはだいたい把握している。
「ローストビーフ丼にしよう、近くにグラム単位でローストビーフ乗せてくれる専門店があるって聞いてるから」

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秋恵ちゃんは馬鹿みたいな量のローストビーフの乗っかったローストビーフ丼を実に素晴らしい笑顔で食べてくる。
「そういうとこ豊さんそっくりだよね」
「なに?」
「美味しいものをすごく美味しそうに食べるとこ」
僕はさほど食が太くないのでご飯もお肉も少なめだが、警察でゴリゴリの体力仕事をしてるだけのことはあってか非常によく食べる。
学生向けサービスだというミニサラダも秋恵ちゃんにあげてしまった。
「あと、豊さんが秋恵ちゃんが最近日野に来ないって寂しがってたよ?」
「機動隊入ってから忙しくて。仕事終わっても池袋に帰るので精いっぱいなんだよ、まあ帰ってもチビがいるけど」
「居候先のお子さんだっけ?」
「そ、居候先の一人息子勝手に連れ出すのも気が引けるしさ」
「じゃあ豊さんと顔合わせたら?豊さん、来月からラジオ出るんだよ」
「はぁ?!」
店中に響くほどの大声で叫ぶのをなだめすかして座らせると、スマホであるウェブページを出す。
来月からパーソナリティーが交代するラグビー情報を流すラジオ番組だ。
「ほら、9月からのパーソナリティーが豊さんになってるでしょ?」
それを確認すると実に深いため息を吐いて「……父さんそんなことしてたの?」と呟いた。
元々その人柄ゆえに人気のある人だし、文章を書くのが上手いから時折ラグビー関連のライターをお願いされていたけどついにそこまで来たのである。
「前のパーソナリティーが病気で入院しちゃったからね。急な事だったのとこの番組のスポンサーの一つがうちのチームの親会社で、これも業務の一環ってことで押し切ったの」
「無茶苦茶だな」
「雨だれ岩を穿つってね」
「そういう事じゃないでしょ……つーか絶対そのことわざの使いみちおかしい」
「細かいことは良いんだよ」
「その言い方父さんそっくり」
「あ、そう?」
「嬉しがるなよ、まあ父さんと英人逢わせれば都合は良いかな……父さん子ども好きだし」
秋恵ちゃんがぶつぶつと考え事を始めるので僕はお冷を飲んでやり過ごす。
その表情は難しいパズルを解く子どものような表情で、なんとなく居候先で楽しく過ごせてるのかなと思えた。
(……確か居候先って、高校の時の先生の家なんだっけ)
昔のお母さんを亡くした直後の竹浪家を知っている身としてはなんかそれが嬉しく思える。
「居候先の人と上手くやれてるんだねえ」
「母親みたいなことを言わないでくれる?」
「だって僕実質豊さんの再婚相手みたいなものだから実質お義母さんでしょ」
「ぜってーやだわ」



何だかんだこの二人は仲良しです。でもそれはそれとして肉食いてえ。